情報伝達するとき、自身の知っている言葉で勝手に置き換えてしまうということは怖い。
たとえば、牛丼を食べるという行為を、どんぶりものを食べるといういい方に変更する。
どちらも同じことを言っていると考えがちだが、伝わった情報はどんぶりものだということで、それは牛肉のものだという情報は失われている。
調べたことを話したがるのはよくない。報告書の書き方でよく注意されること。 結論だけ述べる。過程が必要なときは付け加える。それと同じように、言い方を変えるということ、気を付けなければいけない。 調べる過程で問題に対して違う表現方法を見つけたとする。例えば、牛丼の作り方を少し知った人が次のように伝える。「どんぶりもので、牛肉を使ったもの。」転じて、「牛肉を使ったどんぶりもの」と伝えてみる。ひどい人になると「牛肉とご飯の食べ物」と伝える。それでいいんじゃないかと。完全にその人の主張が入っている。牛丼というアイデンティティーはあるが、牛肉が載っている食べ物はすき焼きタイプのものか、ハンバーグタイプのものか、そもそもいろいろある。間違った情報の伝え方だと言わざるを得ない。
ともすると、この牛丼という情報も、本当は、吉野家だったかもしれない。正確には吉野家の牛丼、という表現だが、それは長いから牛丼にしたのだろうか。ならば、同じ文字数で伝えるなら、「吉牛」くらいでよいのではないか。
タイトルにある情報の粒度とは、情報の細かさ・詳細さの段階を表している。牛丼に対して吉野家、という情報が加わったとき、詳細であるということ。粒度が細かいという(正確ともいう)。牛丼に対して、どんぶりものという情報になったときは、情報が荒くなったということ。粒度が荒いという。
さて、このことを真剣に考えたい場面がある、緊急対応、顧客対応など、言い間違えや、与える印象の違いで、いわゆる伝言ゲームが発生することで事故につながるとまずい場面だ。
牛丼の例は一般用語なのでその違いや修正方法がわかりやすい。では、他の分野でも同じだと気づく人はいるだろうか。一例を出し、とっさのときに正しい表現ができるのかの疑問を呈したい。技術的な分野、コンピュータの分野の例を出す。
コンピュータの世界だとこの様な会話がよくある。「使っているOSはなんですか?」という質問に対して、「Windows XPです。」と答える。一般的な会話なら問題ない。
少し丁寧に答える技術者は次のように答える。「Windows XP Professional SP3です。」
実は、Windows XPの製品の最長の名称は本当は次のようなもの、「Microsoft Windows XP Professional Edition Service Pack3 (x86) JPN」これに、ライセンスのモデル(OEMモデル、MSDNモデル、ボリュームライセンスモデル)やロゴ(Microsoftの後にロゴマーク)の情報なども加えるとより正確になる。正確な表現そのものはMicrosoft社の情報を参照されたし。
(正式名称に関するプレスリリース、マイクロソフト商標リスト)(商標リストは権利関係の分野の情報として参考にされたし、この記事の趣旨としては技術的なトラブルを未然に防ぐ場面を想定している。)
特定の技術に携わっているエンジニアは、Windows XP Professionalと答えて終わることができる仕事をしているからそれをしているに過ぎない。
技術的に省略が問題となるのは、製品名称以外にたとえば、どのアップデート(セキュリティパッチなどと呼ばれることもある)プログラムをインストールしたか、ドライバソフトウェアは何をインストールしたか、そういう情報まで必要になることがある。
顧客に自社の製品を納品してきてそこにあったPCのOS情報をWindows XPとだけ記録して帰ってくると、後々トラブルになった時にProfessionalかHomeという聞き直しをしないといけなくなる。
商売上の弊害の一例を出すと、日本市場の縮小により日本国外に商品を販売しようとしたときに、どの言語のOSで動作するのか、改めて確認をし直したエンジニアも多いだろう。
技術上、商売上と両方の弊害の一例を出せば、WinXP Pro SP3 という情報だけで仕事をしていたエンジニアにとって、昨今の 64bit CPUが搭載されたコンピュータが出たときに改めて販売部門の人からx64(64bit)のOSに対応されているのか聞き直されたことだろう。技術的にも製品の試験の記録にx86という名称が抜けていた時にはx64でも動作してしまうのかどうなのか、改めて試験報告を行う必要が出てくる。
つまり、その時はよいと思って記載した情報も、聞く相手や環境の変化により問題が発生することが多々ある。良かれと思って省略した情報は重要な情報であることがある。一つの対処法としては、省略した情報を理由とともにどこかに書いておくことだ。時間がたった後に省略された情報が必要になった時に元の情報に復元することができる。例えば、Win XPと記載したときは、Windows XP Professional SPはその時点の最新 x86 JPNという意味です。と記録しておく。
言い方を変えてしまうときはさらに重大なことが起こる。コンピュータのOSという人もいる。一時期どんなPCを買ってもたいていWindows XPだった時があった。もちろん今の時代は時期が変わっている。この言い方をするときにはその人はWindows XP ProとHomeがあることは知らない場合がほとんど。技術的なやり取りは望めない。
技術の世界の例はここまでにして、本筋に話を戻したい。
医療の現場は伝達ミスや正確な表現を求められる最たるものだろう。ただ、一般の人も、普段の生活でもそういう場面に出くわすことを想定しておいたほうがよいと考える。緊急時に大切な人を守れるかというような場面での情報の伝達ミスは重大な結果をもたらすことがある。前述のとおり、表現方法について考えられる場面はいくらでもある。普段から意識していると情報の伝え方は訓練できると思う。
例えば、道端で人が倒れている。その時に情報を正しく伝える意識が薄いエンジニア(あるいはビジネスマン)は以下の表現方法のうちどの表現方法を使うのだろう。場合によっては間違いを犯す可能性がある言い方があると思う。同じことを表現するのでも様々な言い方があって、一言目で伝えた情報が初動を決めることもある。どれが適切ということではない。救急の方がいたらその指示に的確に答えることでよいと思う。表現例を示してこの記事を締めくくりたい。
救急車を呼んだ時、どう報告するか。
物の識別に関して、
「生き物が倒れています。」
「人が倒れています。」
「女性が倒れています。」
「女性に見える方が倒れています。」
「人が倒れています。身分証を見たところ、女性、43歳です。」
現象に対して、
「人がいます」
「人が倒れています」
「人があおむけに倒れています」
「人があおむけに倒れています。呼吸をしていないようです。」…